
多血小板血漿療法(自由診療)
PRP therapy
当院では、患者さんお一人お一人のライフスタイル、QOL(Quality Of Life)を尊重し、標準治療の検討も行った上で、PRP治療の実施をいたします。なお当院では、恵智会の再生医療適用コンセプトにならい、再生医療提供をしております。
多血小板血漿(PRP)療 法とは
多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう、Platelet-rich plasma: PRP)は、自己の血液から抽出して得られる血小板と成長因子を豊富に含む成分であり、傷んだ組織の修復を促進することが知られています。
PRP療法とは、この働きを利用し、患者さまご自身の血液から特殊な技術で血小板が多く含まれる血漿を取り出して、関節炎や変形性関節症をおこしている関節内に注射投与し、自らが持つ治癒力を高める治療法です。
プロアスリートでは、怪我の早期治癒・復帰のためにPRP療法を選択するケースもあります。

血小板とは…血液を作る骨髄の巨核球という細胞から出来たもので、組織が傷ついたりしたときに血液を固め、止血する役割を担っている。血小板は成長因子を豊富に含んでいる。
成長因子とは…細胞の増殖・修復に働きかけるタンパク質の総称を指す。血小板が有するα顆粒は、PDGF(血管新生や細胞増殖)やVEGF(血管新生)などの成長因子を細胞外に放出する
PRPの働き
抗炎症・組織修復
PRPに含まれる血小板は、治癒を促進するための成長因子などのタンパク質を 放出し、炎症を抑え組織の修復を促します。
傷が治るプロセスと同じように、変形性関節症の痛み低減には、まずは炎症を沈め、組織修復に必要な治癒のための因子を集め、修復作業を促進する必要がありますが、PRPが一連の早期治癒を促進すると考えられています。

成長因子
血小板の中にはさまざまな成長因子が含まれており、どのくらいの成長因子が含まれているかには個人差があります。成長因子がそれぞれもつ特性は異なります。成長因子には、血管新生を促すHGFや、血管新生や細胞増殖も期待されるPDGFなどがあります。
変形性ひざ関節症のPRP療法の効果
順天堂大学整形外科・スポーツ診療科のPRP療法の報告によれば、ヒアルロン酸注射の治療歴がある患者さんを対象とした効果測定で「全体では62.7%でしたが,比較的早期の方では7割ぐらいに効果がありました.」(※1)とし、初期段階では約7割、全体で約6割に治療効果(痛みの指標の減少、膝の機能・生活の質向上)があると言われています。
しかし、すべての人に効果があるわけではなく、どんな要因があればPRP療法の効果があるのかどうかは、現在研究段階で明らかになっていない部分もあります。なお、PRPの効果を得にくい要因として以下が考えられています。
PRPの効果を低減させると考えられる要因
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年齢よりも変形性ひざ関節症の重症度の高さ
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アライメント不良(からだの歪み)があり、O脚が強い
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BMIが高い、または肥満の方
PRP療法のガイドラインでの評価
日本整形外科学会の変形性ひざ関節症の治療ガイドライン(診療における指針と取りまとめたもの)では、PRP療法については記載はありません。米国の整形外科のガイドライン(AAOS)では推奨度は星4つ評価(満点)のうち星2つを獲得しています。PRPは薬物とは異なり、患者さん自身の血液で作られるもので、一律に効果を判定できないことや、AAOSのガイドラインで指摘の通り、PRPの調整方法やPRPの特徴(どんな成長因子が含まれているか)は定義されておらず、今後の研究課題とされています。
なお、ヨーロッパの変形性膝関節症のガイドライン(ESSKA2022)では、変形性膝関節症のKL3(ひざ関節の隙間が50~70%程狭くなり、明らかに骨棘などがみられる状態)まではPRPが推奨されるとされています。
PRPの複数回投与
ヨーロッパの変形性膝関節症のガイドラインでは、1~3週間毎に2~4回の投与が勧められていることから、当院では4週間おきに3回の投与を1クールとして実施しています。
PRPとヒアルロン酸
ヒアルロン酸の関節内投与は国内では保険適用となっている治療です。国内のガイドラインにも記載があり、強力なエビデンスはないものの有効な薬物療法の1つと考えられています。一方、AAOSのガイドラインでは日常的な推奨はせずとしています(推奨度は星4つ中3つ)。
なお、2018年のAAOSの学会誌では、変形性ひざ関節症のさまざまな治療(ヒアルロン酸注射も含む)の有効性ランキングで、関節内のPRP投与が上位を獲得したという報告もありました。
変形性ひざ関節症の非外科的治療の有効性ランキング
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痛みの軽減で3位
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機能改善の可能性で5位
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痛みと機能の両方改善する治療で3位
PRP投与の流れ
PRP投与は採血から投与までおおよそ20分程度の所要時間です。採血した血液の成分を分離するキットを使い、遠心分離機で数分間回すことで、赤血球と血漿を分離をします。赤血球は重みがあるので試験管の下に沈み、血漿は上部へ集まります。その中間層を採取し、PRPとして投与します。

1. 採血

2. PRPの作成
専用キットを用いて遠心分離を行います。

3. PRPの調整
分離した血液から血漿層を取り出します。

4. PRPの投与
PRPが調整できたらすみやかに投与をします。注射部位はしっかり消毒し、部位によってはエコーをあてながら注射をします。

5. 投与部位の固定
投与後、膝の場合は包帯で膝を固定します。
PRP療法のメリット・デメリット
PRP療法にもメリットとデメリットがあります。
メリット
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当院と連携する順天堂大学整形外科・スポーツ診療科の治療実績では、早期の場合には約7割に効果があり、全グレードあわせても約6割に効果があると報告がある(※1)
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自身の血液から精製したものを薬として使うことから、副作用が少ない
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日帰りで実施ができる(入院の必要がない)
デメリット
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すべての人に効果がある治療ではない
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自由診療で費用負担が大きい
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注射による腫れ、感染、内出血のリスクはある(ただしこれはヒアルロン酸やその他注射においても同じ)
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即効性はありません。
PRP療法のリスク、副作用
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注射後の感染
非常にまれですが、注射後に感染を合併する可能性があります。血液採取は閉鎖的に行い、安全にPRPを作製します。注射後の感染の頻度は、通常の関節注射と同等と考えられます。
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注射部位のしびれ、麻痺
手足が動かなくなるような麻痺が生じる危険性は通常ありませんが、注射部位の周囲がしびれたり、感覚が若干鈍くなったりすることがごくまれに生じます。運動には支障なく通常は時間経過により回復していきますが、感覚の鈍さが残ってしまう可能性もあります。
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採血部位やPRP注射部位の出血、内出血
注射部位を一定時間圧迫し対処しますが、出血傾向のある病気を有する方や、血小板が減少している方、抗凝固剤や抗血小板剤を内服している方には治療できないことがあります。
治療後の注意事項
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治療後
治療後は3日程度は痛みが出る可能性があるので、長時間のウォーキングやランニングをさけてください。
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入浴
治療後の当日は入浴はお控えいただき、シャワー浴となります。
治療期間・回数・費用
治療期間・回数
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PRP療法は1回目のPRP投与から約4週間おきに3回の実施を1クールとしています。
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おおよそ5~6ヶ月の期間で、初診や効果判定の受診を含め6回程度の受診が必要です。